食物依存性運動誘発アナフィラキシーを抱えた生活の実情
- 2019.05.09
- 栄養
- アナフィラキシー, 食物依存性運動誘発アナフィラキシー
出会い
直前まで深い眠りだったのがウソのように、パチッと目が覚める。
時計を見ると朝8時。寝坊だ。
「やっぱり。目が覚める瞬間に嫌な予感がした」
しかし、急いで支度をしてダッシュで駅まで向かえば、9時の始業にはギリギリ間に合う時間だ。
歯磨きをして髭を剃り、顔を洗う。
いつもはワックスで髪型を整えるが今日は諦める。
スーツを着ながら、テーブルの上に置いてあった、数日前に買った菓子パンを頬張る。
ペットボトルのお茶で菓子パンを流し込み、革靴を履く。
10分で用意ができた。やればできる。
さあ、駅までダッシュだ。
駅までは走れば5分とかからない。
軽快に駅までの道のりを駆け抜け、改札を抜けて、いつもの場所、先頭車両の一番前の扉から乗り込む。
「ふぅ、これで間に合いそうだ」
このまま25分乗っていれば会社の最寄り駅だ。
またそこからダッシュすれば大丈夫。
走ったせいで汗ばんだ体を冷やそうと、ワイシャツの首元をバタつかせて空気を送り込む。
電車が走り出してしばらくしたところで異変に気付く。
頭頂部がピリピリと痒いのだ。
汗をかいたせいで痒いのかなと思い、しばらく放置をする。
しかし痒みは治まるどころか、熱を持ちながら頭部全体に下りてくる。
しかも掻けば掻くほど痒みは増してくる。
そうこうしている間に、まぶたが熱く重く感じてくる。
唇も腫れぼったい気がする。
そして何よりも痒い。
「なんかヤバい・・・」
この頃になり、何か良くないことが体に起きているのだと悟る。
頭頂部から始まった痒みは、頭部全体に広がり、さらには首、肩、腕、胸へと、徐々に徐々にその範囲を広げてくる。
ワイシャツの袖をまくり自分の腕を確認してみる。
プクッと皮膚が赤く腫れ上がっている場所が数か所できている。
そこが熱く、痒いのだ。
「ジンマシンというやつか、これは」
途中駅で降りるという発想がなかった僕は、我慢して会社に向かう。
さすがに駅から会社までを走る元気はなかったが、ギリギリ9時に間に合った。
「顔、腫れてるけど大丈夫?」
「すみません、ちょっとトイレに籠ります」
そそくさとトイレの個室に籠る。
ワイシャツの裾をたくし上げ、ズボンを下ろし、体の隅々まで確認する。
蕁麻疹は足の先まで広がっていた。
うっかりどこかを爪で掻いたものなら、さらに痒みが増し、掻く手を止められなくなる。
しかも右足の太ももを掻いたら左足も掻きたくなるし、お腹も掻きたくなる。
ひとしきり掻いた後、鬼の心で掻く手を止める。
しばらくすると、頭頂部の痒みが収まってきた。
そして、やってきた時と同じように、徐々に徐々に痒くない範囲が下に広がっていく。
「あと少し、あと少しの我慢だ。頑張れ俺」
痒みが収まる感覚だけを拠り所に、ひたすら個室で耐える。
個室に籠って1時間。
ようやくオフィスに顔を出せる状態になった。
自分の体を確認すると、胸も、腕も、お腹も、太ももも、引っ掻き傷だらけだ。
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これが初めて異変を認識した時の状況です。
26歳の頃でした。
なぜ蕁麻疹が出たのか、理由が全く分かりません。
- よっぽど会社に行くのが嫌なのかな
- ストレスかな
- 体調悪いのかな
- 変なものでも食べたかな
その程度の認識でした。
自力で収まったこともあり、またいつもの日常へと戻りました。
原因
しかし、数週間後に、また同じようなシチュエーションで、同じ症状が出ます。
その時も、駅まで走り、電車内で発症です。
おかしい。でも原因が分からない。。
そうこうしているうちに、3回目の発症です。
この3回には何か共通点があるに違いない。
記憶を手繰り寄せながら共通点を探る作業です。
- 前の日に会社で何か言われた?
- その日、会社で気が重い会議とかある?
- 夜はちゃんと寝たっけ?
- 着ている下着やスーツは同じ?
- 美容液やワックスの影響?
- 前の晩に食べたものは?
- 今朝食べたものは?
そこで気付きます。
蕁麻疹が出た日は、必ず朝、パンを食べている。
そして、走った直後に発症している。
おそらくこれでしょう。
そう考えた時、一つの出来事を思い出しました。
初めて異変を認識した日の数ヶ月前の話です。
その日は秋晴れのすがすがしい日でした。
僕はジョギングでもしようと、多摩川の河川敷を上流に向かって走り始めました。
2キロほど走ったでしょうか、突然体調が悪くなったのです。
体の表面が熱くて痒い。呼吸も若干苦しい。
フラフラになりながらスタート地点まで何とか戻り、堤防の階段で1時間ほど休んでいたら症状が落ち着きました。
あれはまさに蕁麻疹の症状でした。
そして、ジョギングの出発前にやはりパンを口にしていました。
それ以前は一度も同じような症状が出たことはありません。
子供の頃は、給食を食べた後、普通に昼休みにドッジボールなどをしていました。
あのジョギングの最中の蕁麻疹が、最初のアナフィラキシーでした。
その日の夜に、当時付き合っていた彼女と大喧嘩をした印象が強すぎて、蕁麻疹のことはすっかり頭から消えていました。
どうやらパンがダメらしい。
でもただ食べるだけなら大丈夫そうだ。
食べた後に走ると発症するらしい。
そんなことが分かったうえで病院に行きました。
アレルギー検査の結果、やはり小麦に反応していると。
そして僕の症状は、小麦の消化が中途半端なまま腸に入り吸収されると発症するらしいということが分かりました。
付き合い
その後は、なるべく小麦を口にしないという生活を心がけました。
しかし一人暮らしの男です。
自炊は今まで一度もしたことがありません。
外食に頼れば、ほぼほぼ小麦の入った料理が出てきます。
敢えてパスタなどの料理は自分からは注文しないものの、料理の全てで小麦を取り除くことはかなり難しいことでした。
したがって次善の策は、小麦を食べたら動かない、ということです。
まず朝は確実に駅まで歩くので、朝食は食べません。
僕の仕事はデスクワークなので、お昼は基本的に好きなものを食べます。
午後に外出などがある時は、おにぎりだけにするなど調節します。
夕飯は、家で食べる時は好きなものを買って帰ります。
誰かと飲みに行ったりする時は、特殊な小麦アレルギーであることを予め伝え、もし食べた場合はなるべく動かないことを心がけました。
とはいえいつも完璧に実行できるわけではありません。
ある時は、先輩と一緒に餃子を食べに行き、お店から徒歩5分の場所にある先輩の家まで歩いただけで軽く発症しました。
軽かったので、しばらくじっとさせてもらっていたら落ち着きました。
ある時は、彼女と温泉旅行に行き、夕食後、彼女とコトをいたしている最中に発症しました。
彼女は僕の症状のことをよく知っていたので、ペットボトルで冷やしたりクリームを塗ってくれたりして事なきを得ました。
最近では、会社から徒歩10分の場所で行われた全社イベントでうっかりピザを口にしてしまい、イベント終了後に会社まで歩いただけで軽く発症しました。
周りが二次会に向かう中、僕だけ自席でじっとして、1時間ほど遅れて二次会に参加する羽目になりました。
食物依存性運動誘発アナフィラキシーとの付き合いは15年以上となりますが、未だにちょっとしたミスは起こります。
ただ摂取する小麦の量は少量なので、症状も軽く、体のどこか数か所がプクッと腫れる程度で、1時間もかからないで落ち着きます。
というか、食物依存性運動誘発アナフィラキシーという名前を、実は今日初めて知りました。
インターネットを見ていたらたまたまこれについて書かれた記事を発見して知りました。
対応
記事を見て興味を持ち、文献を調べてみたところ、この症状を持っている人は12,000人に一人くらいの割合だそうです。
なかなか希少価値の高い病気です。
アレルギーを引き起こす食べ物は、小麦と甲殻類が圧倒的に多いようです。
経験則として、この病気と付き合っていくためには次の3つがポイントになると思います。
1.可能な限り原因物質を摂取しない
まずは地道にこれをやるしかありません。
朝食は必ず和食にしたり、米粉を使った料理を工夫したり。
外食時、お店選びに主導権があるのであれば、和食のお店をチョイスすることもできるかもしれませんが、そうでない場合は、注文するメニューで工夫をするしかありません。
2.もし摂取したら絶対安静
摂取するのを完璧に防ぐのは難しいと思います。
その時は、安静にするしかありません。
もし摂取した後に移動の必要がある場合は、迷わずタクシーを使いましょう。
ちょっとの距離だから大丈夫。とか、ゆっくり歩けば大丈夫。と思いがちですが、大概の場合、それでも発症します。
安静にすることを最優先にしてください。
3.周囲の人に予め伝えておく
家族はもちろん、会社の同僚、よく食事に行く友人、飲み会の参加者などには、病気のことは予め伝えておきましょう。
ほとんどの人が理解をしてくれて、積極的に協力してくれます。
非常に面倒な病気ですが、これからも付き合っていくしかありません。
なだめすかしながら上手に付き合っていきましょう。